未明の三日月

「佳宏、どの辺に住む?」

夕食の後、タブレットで 住宅情報を見ながら 美咲が聞く。
 
「俺、豊洲がいい。」

佳宏は迷わず答えた。

驚いて顔を上げた美咲。


「佳宏って、案外ミーハーだね。」

と笑うと 佳宏は照れた顔をした。
 
「結婚式とかも、あんまり地味なのは嫌だな。美咲に恥ずかしい思い させたくないからさ。」

佳宏の言葉に、美咲は笑ってしまう。
 

「私は 気にしないよ。そんな所で見栄張っても。もったいないし。」

と美咲が言うと、
 
「美咲 前に 田舎では 勝ち組だって言ったでしょう。俺もそうだから。だからさ、少しは豪華にしようよ。」

と佳宏は言った。


美咲は 佳宏の気持ちが よくわかる。
 

佳宏は サラリーマンとして成功している。

高い収入だから、特に倹約しなくても 預金は増えたのだろう。
 

美咲もそうだった。

元々 浪費家ではないけれど。

都内で 一人暮らしをしながら、美咲も 預金ができていた。


佳宏ほどではないけれど。

同年代の女性としては 多い額を、無理しないで 貯めていた。
 


東京には たくさんの人がいる。


でも 佳宏や美咲は その中では 上の位置で生活していた。

だから、少しは贅沢したいと思う 佳宏の気持ちを、美咲は理解できた。



特別な時だからこそ。


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