愛溺〜番外編集〜
駅までの道を歩く中で、私は涼介の制服の袖をそっと掴んだ。
「……愛佳?」
「私も、あんたといる時が一番…気楽で、良い」
“楽しい”と素直に言えばいいものの、恥ずかしさが勝ってしまう。
「うん、ありがとう。
嬉しいよ」
けれど涼介は嬉しそうに笑って、私の手を優しく握ってきた。
私がどう言葉にしようが、彼に伝わるのだからそれで満足だ。
駅に着くと学校の生徒がほとんどいなかったため、私たちの距離はいつもより近かった。
とはいえ電車に乗り込む時は、繋いだ手を離したけれど。
電車に揺られ、涼介の家に向かう。
自転車は学校に置いているため、明日は涼介と一緒に電車で登校できる。
「あのさ」
「……何?」
「愛佳って中学の時も、今までと同じ明るい人柄で他人と接してたの?」
「え、急にどうしたの」
電車に揺られている最中に、突然質問されたものだから驚いた。
互いに話すことなく静かな空気が流れていたため、余計に。
「今日の放課後、後輩って言ってた子と話してたのを見て、俺は愛佳の過去を全然知らないなと思ったんだ」
そんなの私だって過去の涼介のことを全然知らない。
中学の時はどうしてたのか、なんて。
けれどこれから少しずつ知っていけばいいかな、という気持ちでいたのだ。
「だから俺に教えて、愛佳のこと」
「……私のことだけ?」
「愛佳が望むなら俺のことも話すよ」
「うん、交渉成立!」
もしかしたら、これが過去の互いを知る機会なのかもしれない。
涼介のことも教えてくれるということで、了承した。