愛溺〜番外編集〜
「あっ、寛太…!」
体育祭の練習に参加していた寛太が、私の元に駆け寄ってきたのだ。
「実行委員、集合みたいです」
「あ、もうそんな時間か。ほら涼介も行くよ!」
私たち体育祭実行委員は、放課後の練習準備や片付けの責任を負う。
そろそろ練習時間が終わりに近づいているため、実行委員として動かないといけないのだ。
「……うん」
険悪な空気を引き裂くようにして、私は涼介の腕を引っ張った。
「愛佳先輩、リレーに出るんですね」
「そうだよ。寛太は?」
「俺もリレー出ますよ!」
「寛太、足速いもんね」
「愛佳先輩も速いじゃないですか!」
女と男の“速い”は違う。
けれど寛太に言われると、少しだけ自信に繋がる気がした。
「うん、一年に負けてられないなぁ」
「俺たちも先輩に勝つ気満々ですよ!」
「そんなこと言われたら余計に負けられないね」
「こっちこそです!」
中学の時は互いに味方同士だったというのに、いくら体育祭とはいえ、敵同士であることが不思議である。
それは寛太も思っていたようで、互いに笑みを溢した。
するとその時、涼介がさりげなく私の腰に手をまわしてきた。
あまりに突然のことで驚いてしまう。
「涼介…?」
「どうしたの?」
本人は至って普通だった。
まるで無意識にやっているかのようで。
堂々と触れ合っているわけではないし、隣には寛太もいるため気にしないでおく。