愛溺〜番外編集〜
「愛佳、今日は俺の家に来ない?」
「んー、行きたいけど何回も行ったら迷惑でしょ」
「そんなことないよ。むしろ母さんも毎日のように会いたいって言ってる」
「本当?なら行こうかな…」
最近、涼介の家に行く頻度が増えている気がするけれど。
家に帰るとひとりであるため、どうしても甘えてしまうのだ。
「うん、じゃあ決まりで」
行くという趣旨の言葉を口にするなり、涼介は嬉しそうに笑って私の腰から手を離した。
もうすぐ集合場所に着くということで、変に目立たぬように離したのだろうか。
だとすれば確信犯である。
どうして人前で触れてきたのか、理由は考えてもわからない。
答えは見つからぬまま、実行委員をまとめる先生の話を少し聞き、片付けに取り掛かる。
「愛佳先輩って瀬野先輩と本当に付き合ってるんですね」
グラウンドに配置した大きいコーンを、体育館裏の倉庫に直している時、ふと背後から声が聞こえてきた。
声の主は寛太だとすぐに気づいたため、迷わず振り返る。
「いきなりどうしたの?」
「何ていうか…学校で恋人らしいこと、してないじゃないですか」
「そんなの私が嫌だから、学校で恋人らしいことするなんて。堂々としてる方が少ないと思うけど」
たまに相談室へ行き、ふたりでご飯を食べる時くらいだ。
恋人らしいことをしている時間なんて。
「そうなんですけど…」
「寛太?」
珍しく元気がない寛太。
どうしたのだろうと心配になる。
「疲れてる?元気ないよ」
「……俺、やっぱり嫌です」
「はい?」
側に寄れば、寛太が真剣な顔つきで私を見つめてきた。