愛溺〜番外編集〜
「中学の時はずっと憧れでした。そんな愛佳先輩に可愛がってもらえて嬉しかったです。でも今は嫌なんです」
「え…?」
いつもと違う寛太に、思わず後退りしてしまう。
何となく、その次の言葉を聞いたらいけない気がして。
「そ、そうだよね!寛太だって高校生だし、今はもう寛太の先輩じゃないもんね私。ごめんね気づいてあげられなくて。じゃあ私は残りのコーン取ってくるから…」
「男として見てほしいんです、俺のこと」
「…っ」
間に合わなかった。
寛太の手が伸びてきて、私の手首を掴んだのだ。
大きくてゴツゴツした手。
こんなにも彼は成長していた。
背も力関係も変わって、逆転して。
私が思うよりずっと彼は男の人になっていた。
「好きなんです、愛佳先輩のこと。この高校選んで良かったって心から思います。だって愛佳先輩と再会できたから」
「な、何言って…」
「瀬野先輩がいるのはわかっています。でもやっぱり俺、このまま黙って諦められないです」
寛太が寛太じゃないみたいで、調子が狂う。
こんな姿見たことない。
だって寛太が私のことを好き…?
そんなの考えたことすらなかった。
「ご、ごめん…!
寛太の気持ちには応えられなくて…」
「俺、頑張ります!」
「え…?」
「少しでも男として見てもらえるように!」
すごく気合の入った言い方だったけれど、私の話を聞いていただろうか。
気持ちには応えられないと言ったはずなのに。
「待って寛太、私…!」
「じゃあ俺、残りのコーン取りに行ってきますね!」
結局寛太は私の話を聞こうとせず、笑顔を浮かべてグラウンドに戻ってしまう。
体育館裏の倉庫で取り残された私は、その状況に呆然とするしかなかった。