愛溺〜番外編集〜
「本当に幸せそうだねぇ?」
「…っ、そ、そんなことは…」
一部始終を見ていた沙彩に突っ込まれてしまい、恥ずかしくなる。
「ほら、せっかく今日のために気合入れてポニーテールにしてきたんでしょ?体育祭、楽しもうよ」
「うん…」
気合を入れてポニーテールにしてきたのは事実だ。
けれど、似合っているかどうかも不明だ。
涼介からは何も反応をもらえていない。
というより、まだ接触できていないのだけれど。
「あ、私そろそろ実行委員の仕事に行かなきゃ…」
「そうなの?瀬野は?」
「涼介とは担当競技が違うの」
体育祭実行委員の当日の仕事は、主に競技準備だった。
私はふたつ後の競技担当のため、実行委員の集合場所へと向かう。
「あっ、愛佳先輩!」
そして集合場所が見えてきた時、思わず足を止めた。
そこに、今まで避けてきた寛太がいたからだ。
おかしい、寛太はこの競技の担当じゃなかったはず。
「どうして寛太が…」
「愛佳先輩と同じ競技を担当していたクラスの女子が怪我したみたいで、その代わりに駆り出されました!」
なんて、嬉しそうに話す寛太。
ここに来て会うだなんて最悪だ。
「愛佳先輩、その髪すごく似合ってますね!
かわいいです」
「……っ、ありがと」
不覚だった。
まさか涼介より先に感想をもらうだなんて。
褒められて悪い気はしないけれど。
「久しぶりに愛佳先輩と話せた気がします。
最近、避けられてる気がして…」
気がするというより、避けているのだ。
寛太が急にあんなことを言うから。
「やっぱり私は男として見れないよ…」
これまで恋とは無縁だった私が、初めて好きになった相手が涼介なのだ。
きっとこれからも彼以外、恋というものに発展しない気がする。