愛溺〜番外編集〜
「それでは準備してください」
実行委員をまとめる先生の一言で、待機していた4人の実行委員が動き始める。
少しでも時間を無駄にしないため、テキパキと行動した。
準備を終えると競技が始まった。
片付けまでが仕事であるため、思った以上に実行委員というものは大変だった。
「はぁ…」
競技で使った物は、もう来年まで使わないため倉庫へと直しに行くけれど。
足が重くて、思うように前へ進まない。
「愛佳先輩、これ俺が持ちますよ」
「…っ、だ、大丈夫…!」
持っている物が重いと勘違いした寛太が隣にやってきて、私の分まで持とうとしてくれたけれど、慌てて大丈夫だと断った。
「何か疲れてますね、愛佳先輩」
「……そう?」
原因は寛太であることを知っているのだろうか。
「はい、じゃあお疲れ様です。実行委員は体育祭終了後にも仕事があるから、頑張りましょう」
先生の言葉で私たちは解散する。
早く観覧の席に戻ろうと思ったけれど───
「愛佳先輩!」
寛太に呼び止められてしまった。
さすがに名前を呼ばれて無視することはできない。
「……なに?」
「どうして俺のこと避けるんですか」
「…っ」
真剣な表情の寛太を見て、咄嗟に視線を逸らしてしまう。
「確かに男として見て欲しいって言いましたが、避けられるのはもっと辛いです…!」
そんな素直に言葉をぶつけないで欲しい。
けれど、寛太は真っ直ぐな視線を私に向けてくる。
「だって、いきなりあんなこと言われても…」
「俺、もうあの頃みたいに子供じゃないんです。背も愛佳先輩より高くなったし、力だって俺の方が強いです。今の俺なら愛佳先輩を守れる側に立てます」
「な、何言って…」
「とにかく俺は愛佳先輩のことが本気で」
寛太がまた私に想いをぶつけようとしてきた時。
「───ふたりで何を話しているの?」
思わずビクッと肩が跳ねた。
その声の主は明らかに涼介のものだったからだ。
トーンの落とした声は、少し怖いと思ってしまう。