愛溺〜番外編集〜
「“一時期”?」
「今、神田拓哉には恋人がいるみたい。同じ高校出身の…出てきた、白野未央。
やけに執着してるみたいだよ。彼女のためなら自分の身を投げ出すくらい───」
その時、翼くんが話すのをやめて涼介を見た。
さらに他の幹部のみんなも涼介に視線を向ける。
つい私まで彼を見てしまった。
「……どうしたの?」
「いや、何だか涼ちゃんと似てるなと思って」
「ああ、俺も思った」
不思議がる涼介に対し、光希くんは素直に話した。
すると悠真くんが同じように後に続く。
先ほどの胸の引っ掛かりの正体はこれだったらしい。天帝の総長が涼介と似ていたのだ。
「愛佳までそう思ったの?」
「うん、まあ…」
「へぇ、俺に愛されてるって自覚あるんだね」
「なっ、なんでそうなるの…!」
大胆にも涼介は私の肩を抱き寄せてきた。
みんなの前で堂々と密着状態になり、少し恥ずかしい。
「でも本当に似ていると思うよ。重い過去もそうだけど、異常なほど彼女に執着してるってところも」
ここまでよく喋る翼くんを久しぶりに見た。
彼も何やら楽しんでいる様子。
「それに瀬野くん、昔は感情の変化があまりなかったよね」
「……それほど翼は俺と神田拓哉を重ねたいの?」
「別にそういうわけじゃ…あっ、待って」
その時、ふと翼くんの表情に焦りが見えた。
「やばい、敵にバレた」
今までにないほど、翼くんはキーボードを高速で叩いている。
これ程までに速いタイピングを初めて見た。
「翼くん、敵にバレたって大変なんじゃ…」
「光希。あまり翼を刺激したらダメだよ」
焦る光希くんに対し、やはり涼介は冷静だった。
このような時でさえ冷静だからこそ、新たなる策を立てられるのかもしれない。