愛溺〜番外編集〜
相手を油断させるため、わざとその攻撃を受ける。
瞬時に俺の動きを封じ込めようと迫る相手は、恐らく相当なやり手だ。
さすがに二度も攻撃を受けるのはダメージが大きいため、低姿勢で相手を躱し、隙を突いて相手の鳩尾を狙って殴る。
相手を怯ませるのに丁度いい場所だ。
だが殴る前に動きを予測されたため、少し殴った位置がズレてしまった。
けれど攻撃が止んだ隙に刃物を奪い、壁にその体を押し付ける。
「大人しくしてもらっていいですか?
こんな危険な物まで持って…」
その時、ふと玄関先の方から視線が感じた。
しまった、敵はひとりではなかったのだ。
再び戦闘態勢に入ろうとしたが───
「すごいね、君。
まさか宮木さんの動きを封じ込めるなんて」
それは空気すらも凍てつくような、威圧感のある声だった。
どうやら今、俺が捕らえている敵は本体でないらしい。
それでこの実力となれば、やはり天帝は油断できない相手だ。
「これは驚いたよ。
いつから俺たちに気づいていたの?」
正確には、今話している相手の存在には気づかなかった。
もし相手も闘うつもりなら、完全に俺は不利だったことだろう。
「目的は、何?」
そのようなこと、聞かなくてもわかっているのだが。
天帝の総長であり、神田組の若頭───
神田拓哉の目的など、ただ一つだ。
「未央の安全確認かな。
でも本当に危害を加えていないみたいで安心したよ」
神田拓哉は俺の苦手とするタイプだ。
というより、感情の読めない人間が得意という方がおかしい。