愛溺〜番外編集〜
「どうしたの、愛佳。
何か怖い夢でも見た?」
なるべく優しい声で話しかけると、彼女は泣きながらも素直に頷いた。
「お父さんと、お母さんが…また死んじゃう夢。
目が覚めたら涼介がいなくて…」
「……それで怖かったんだね」
タイミングが悪かったようだ。
そのような夢を見た後で、俺がいなかったがために心細かったのだろう。
「大丈夫だよ、俺はいなくならない」
「……うん」
「だから泣かないで?そうだな、愛佳が大人しく薬を飲んでくれたら、俺も一緒に寝よう」
「ほ、本当…?」
俺の言葉に食いついてきた愛佳。
今の調子で話を進める。
「もちろんだよ。
じゃあまずは薬を飲んでくれる?」
「飲む…」
「すぐ戻ってくるから待ってて」
ようやく俺から離れ、大人しくベッドで待ってくれた愛佳。
俺が戻ってきた途端、彼女は嬉しそうに頬を緩めるものだから心臓に悪い。
彼女はすぐに薬を飲んだかと思うと、俺もベッドに入るよう促してくる。
今の彼女に恥じらいという言葉などなかった。
一度心を落ち着かせてから俺もベッドに入る。
けれどその心は愛佳によって見事に崩された。
「涼介…!」
すぐさま愛佳は俺に抱きついてきたのだ。
ここまで甘えてくる彼女を俺は知らない。
かわいい、本当に今すぐ手を出したい。
甘くかわいい声で鳴く愛佳を、とことん鳴かせてやりたい。
けれど相手は病人だ、我慢せざるを得ない。
愛佳は疲れが溜まっていたのだろうか。
案外早く眠りについた。
俺に抱きついて数分も経たないうちに、寝息を立て始めたのだ。
「ん…」
頬に赤みを帯びている彼女は、まるで小さな子供のようだ。
いつものように気高く、そして綺麗な彼女とはギャップがあった。
それもまた良い。
なんて、彼女はとことん俺を夢中にさせる。
思わず手を伸ばし、頬を撫でる。
やっぱり熱い。
次に目が覚めても熱が下がっていなければ、病院に連れて行こう。
そこまでは大丈夫だと言い張っているけれど、無理はして欲しくない。
スヤスヤと眠る愛おしい彼女を抱きしめる。
そして理性を保つために、俺もそっと目を閉じた。