愛溺〜番外編集〜



「はい、ありがとうございます」


彼は優しい笑みを浮かべる。

あまりにも自然な笑みがこの状況と不釣り合いに思えて、逆に不自然だ。


未央ちゃんは本当にこのような男と付き合って大丈夫なのだろうかと不安に思っていた矢先───


「…っ、神田く…」
「未央」


何も知らない未央ちゃんが彼を見て驚いたかと思うと。
彼がひどく優しい声で未央ちゃんの名前を呼んだ。


それだけではなく、周りを怖いと思わせるような圧のある雰囲気が瞬く間に消えていったのだ。


「どうして…」
「ちゃんと未央と話がしたくて」


今の彼は自然体だと思えた。
嘘偽りない優しい笑顔に、恐怖心すら消え失せてゆく。

思わず涼介を見た私。
どうやら涼介も驚いているようだ。


「神田く…ごめんなさい…」
「未央は悪くないよ。不安にさせてごめんね」

「うー…」
「おいで、未央」


彼は未央ちゃんを呼び寄せると、迷わず抱きしめた。
どうやら未央ちゃん自身、彼に会いたかったようだ。

それでも不安が消えなくて、躊躇いがあったのだろうか。


「それほど白野さんに惚れ込んでるのか」
「そうみたい。でも良かった…」


どうやら未央ちゃんは相当大切にされているようだ。
彼を見ていたらその様子が伝わってくる。

しばらくの間、未央ちゃんは彼に抱きついていた。


そして落ち着いたかと思うと、恥ずかしそうに離れようとした未央ちゃん。

彼がそれを許さなかった。



「ダーメ、離さないよ」
「…っ、愛佳ちゃんたちが、見てて…」


いや、正直全然気にしないでほしい。
まるで絵になるようなふたりの様子を、永遠に見ていられる気がする。

照れている未央ちゃんはかわいくて癒されるし、神田も美青年で目を奪われる。

< 62 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop