愛溺〜番外編集〜
「瀬野先輩と勉強ですか?」
寛太は躊躇いもなく私の隣に座る。
右隣には涼介、左隣には寛太。
男ふたりに挟まれるのは少々息苦しい。
「君は堂々と愛佳の隣に座るんだね」
「はい!瀬野先輩の前では良いんですよね?」
その言い方に悪意などないのだから余計に困る。
ただ涼介の言葉通りに動いているだけなのだ。
「でも堂々と愛佳の隣に座るのは好ましくないな」
「愛佳先輩に勉強を教えてもらおうと思ったんです!」
寛太は3人の友達と来ていたようで、3人とも戸惑っている。
「お、おい寛太…」
「あっ、悪い!
俺、愛佳先輩に勉強教えてもらうことにした!」
そんなキッパリと言わないで欲しい。
けれど寛太はニコニコと嬉しそうな笑顔のままで。
「ねぇ、本当にいいの?」
3人の友達は気を遣ってか、別の席へと移動していた。
「はい、大丈夫です!
俺が愛佳先輩を好きだって知っているんで」
「…っ、そ、んな大きな声で言わないで…!」
静かな図書室が少しだけざわついているではないか。
少し怒って寛太を黙らせる。
「す、すみません…声大きかったですよね」
違う、それもあるけれど。
一番言いたいのは堂々と“好き”という言葉を口にしないでほしいのだ。
「それで、どこがわからないの?」
「えっ、教えてくれるんですか…!」
パァッと、一瞬にして顔が明るくなる。
わかりやすい。
「一年の前期から躓いてどうするの?
ちゃんと理解しないと」
「うっ…その通りです」
私の言葉一つであからさまに感情が変化する寛太。
それほど素直な性格なのだ。