愛溺〜番外編集〜
「今は何センチ?まだ伸びてるの?」
「もちろんです!180突破も夢じゃないです!」
それでも、寛太の人懐っこい笑みは健在だ。
ふわふわの焦げ茶色の紙は、思わず触りたくなる。
昔はよく女子たちに頭を撫でられていた寛太を思い出す。
「確か部活も続けてるんだよね?」
「はい、続けてます!
レギュラーになれるよう、頑張りますね!」
中学の時は互いにバスケ部だった私たち。
男女共に仲が良く、一緒に練習していた時もあったほどだ。
そのため寛太とも先輩後輩の関係なのである。
「応援してる。
寛太、センスあったからなぁ」
「それは愛佳先輩の方ですよ!
どうして続けなかったんですか?」
「…っ」
本当は部活を楽しんでやっているわけではなかった。
ただ叔母の家にいるのが嫌で、練習時間の長い運動部に入ろうと思っただけのことで。
部活をしている時も自分を作り続けていた私は、正直“楽しい”や“嬉しい”、“悔しい”などの感情はなかった。
けれど今なら、色々な感情を抱けていた気がする。
かなり惜しいことをしたと悔やむほどだ。
「愛佳先輩?」
名前を呼ばれてハッとする。
信号が青に変わっていたのだ。
ふたり並んで自転車を走らせるのは危ないため、私が先を漕ぐ。