悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
「そ、そ、それ……」
十五センチほどの長い針が二本、キャップを被った状態でそこにあったのだ。
「なんだそれは! それで副長を傷つけるつもりか!」
「そんなもので腹でも刺されたら死んでしまうじゃないかっ」
がなる取り巻きたちの横で、アリスは髪をバンダナで覆い、着々と準備を進めていく。
「刺すわよ。これで麻酔して、こっちで腹水を抜くの」
「腹水?」
「見ればわかるでしょ。お腹に溜まっている悪い水を抜くの」
さっさとジョシュアの服をはだけさせ、体の下に布を敷くアリス。
「やめろっ。そんなことできるわけない。治療に見せかけて副長を殺す気だなっ」
頭に血が上った取り巻きの一人が、アリスの器具を奪おうとする。
ルークが咄嗟に手をだして庇おうとしたとき、雷のような大音声が医務室に響いた。
「やめねえかお前ら! ここから出ていけ!」
怒鳴ったのはジョシュアだった。
昨日吐血した病人とは思えないくらいの声だった。
「で、ですが副長」
「俺は腹の水を抜くことを承知する。結果、何かあっても王太子妃のことは恨むな」