悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
一か月後。
薬屋の女主人は、息子と一緒に摘んできた薬草を仕分けしていた。
長時間の作業で首が痛くなってきたので、ゆっくり天井を見上げる。ふと窓の外に視線をやると、客の影がガラスの向こうに映っていた。
女主人は首を真っ直ぐにし、背を伸ばしてドアの方を向いた。
「……どうも」
「あ……っ!」
彼女は驚いて立ち上がった。ドアを開けて入ってきたのは、最近見なくなったと思っていた客だった。
「ツケを払いに来た」
彼──国境警備隊副長ジョシュアは、清潔な軍服をきちんと着こなしていた。
前まではボタンを全部開けていたのに。と不思議に思った女主人は、視線を下ろす。と、彼の蛙のような腹がへこんでいるのを発見した。
彼女が何か言う前に、ジョシュアはカウンターにどすんと袋を置く。中は今までの薬代だ。
「それで足りているか、確認してくれ」
「ええ、すぐに。ありがとうございます」
彼女は帳簿を取り出し、中の紙幣を確認しつつ、久しぶりに会ったジョシュアをちらちらと盗み見る。