悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「他の妃のように、豪華な衣装を用意してやれないからか? はみだし者の俺とじゃ、恥をかくからか?」

 振り向いたルークが珍しく怒っているようだったので、アリスは戸惑った。

「違うわよ。ただ、面倒臭いのよ」

「新たな警備隊の姿を世間に見せるいいチャンスじゃないか。面倒臭いとはなんだ」

「あー、そう言われればそうね。わかった、行く。行けばいいんでしょ」

 はっきり言って、今のルークも面倒臭い。

 適当に返事をすると、大きなため息が出てしまった。

(あーやだ。ソフィアの式なんて行きたくない。重症患者でもいたら、行かずにすんだのに)

 幸か不幸か、今はアリスがつきっきりで看護しなくてはいけない病人も怪我人もいない。

 元々若くて体力があったせいか、初めの健康診断で医務室送りになった者たちはほぼ元気になって復帰した。性病をこじらせてしまった者も、投薬で落ち着いている。

 豆を移す作業に戻ったアリスのしょんぼりとした背中に、ルークは苛立ちを覚えた。

 彼女はルークの言うことを聞こうとしない。自らの考えで突き進んでしまう。

 自分は夫として信用されていないのではないか。

 そう考えると、余計に苛立った。

 ルークは黙って厨房を後にした。

< 132 / 215 >

この作品をシェア

pagetop