悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「ど、どうも……」

 ルークは無表情なままうなずいた。

 どうやら、まだご機嫌斜めらしい。

「いざ王都に出発!」

 号令がかかり、馬車がふわりと浮いた。

 水の上をボートが行くように、するりと動き出す。

 カールは言葉通り、風の魔法を調整しているらしい。

(できるなら最初からやりなさいよ)

 嫁入りのときより快適な車内で、アリスは腰に当てるクッションの位置を調整した。

(ルークが話したくないのなら、それでいい。原因わかんないし、面倒臭いもん。ちょっと寝かせてもらおう)

 ナーバスになっているルークの気持ちをなんとかしようとは、アリスは思わなかった。勝手に回復してくれるのを待つだけ。

 亜里の時代から、そういうやりとりが苦手なのだ。

 誰かのご機嫌を取るとか、話術やコミュニケーション能力の要る仕事は嫌いだった。

 死ぬ数時間前にも、認知症患者に食事を摂らせられずに苦戦していたことを思い出す。

 座布団とクッションの位置を確定させ、もうひとつクッションを抱いて、早くも寝る体勢になるアリス。

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