悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
でも、けなされてハッキリわかった。
(私は案外、今の生活に満足していたのね)
ルークや、警備隊を侮辱されて、あんなに怒りが湧くとは思わなかった。
アリスにとって彼らは、手をかけて育てた子のようなものだ。
二度とナースはやりたくないと思っていた。
誰の看護もしたくないと。
毎日自分の好きなことだけをして、そうじゃないことは誰かにやってもらって、楽な暮らしをしたかった。
結局へっぽこ神様のせいで、茨の道を進むことになってしまった。
(今世は誰かに必要とされていることが嬉しい。……ううん、きっと前世でも、私を必要としてくれた人はいたんだよね)
自分を使い捨ての看護師と蔑んでいたけど、感謝してくれた患者さんもいた。一緒に働く仲間もいた。離れていたけど、家族もいた。
もうあの人生はやり直せない。
(今世ではもっと、幸せにならなくちゃ)
広間中に反響するパイプオルガンの音で、昼寝もできない。
しかしアリスは、そっとまぶたを閉じた。
花壇の前にぼんやり立ち尽くす警備隊を想うと、涙が出そうになった。