悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「ねえ、あなた」

 声をかけた瞬間、令嬢の体がぐらりと揺れた。

「わっ」

 アリスは夢中で手を伸ばし、彼女が床に頭を打ちつけないように支えた。

「どうしたの?」

 舞踏会で過呼吸になった娘のことを思い出す。

 そっと床に横にさせると、彼女が持っていたバッグから、ころりと何かが転がり出た。

「まさか……!」

 転がった小さな小瓶の中に、一粒だけ錠剤が残っていた。

 瓶を拾い上げると、ラベルに『風邪薬』と書いてある。

「どうしました」

 声をかけられ、アリスは顔を上げた。そこには亜里の推しの第二王子・ラズロがいた。

「おそらく、オーバードーズかと」

「オーバードーズ?」

「薬の飲みすぎです」

 推しの登場にはしゃぐ暇もない。気づけば周りに人だかりができていた。

 楽隊も演奏をやめ、現場は騒然となる。

(私が見ていただけで二十錠は飲んでいた。その前にどれくらい飲んでいたかわからない)

 大丈夫かと問おうとした瞬間、真っ青な顔をした令嬢が突然嘔吐した。

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