悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「げっ」

「まあ、汚い」

 床が汚れ、人々が離れていく。女性たちは扇で目を覆った。

「どうすればいい? 侍医を呼ぼうか」

 さすが亜里の推し、ラズロは冷静だった。

「いいえ、私が処置します」

 アリスはすぐさま腕をまっすぐに上に伸ばした。

 召喚した手袋をはめ、ハンカチで口元を、ナプキンで髪を覆った。

「吸引器!」

 アリスが叫ぶと、白い手の中に珍しい機械と透明の管が現れ、人々のざわめきが大きくなる。

「何事かと思ったら、またあの召喚娘か。あれはルークにやったのではなかったか?」

 騒ぎを遠くの席から望遠鏡で見ていたのは国王だった。

「ええ」

「ルークは? なぜ一緒にいない?」

 アーロンは口をつぐんだ。自分が彼をのけ者にしたとは素直に言えなかったのだ。

「大丈夫ですか? 苦しいよね。ちょっと我慢してね」

 アリスはほぼ眠ってしまった令嬢の口を横に向けさせたまま、吸引チューブを入れる。

 令嬢が苦悶の表情をするが、アリスは構わず、小型の電池式吸引器のスイッチを押した。口の中に残っていた吐物が吸い込まれていく。

 床に膝をついて慎重に吸引するアリスに、ラズロが問う。

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