悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
「口を上に向けたらやりやすいんじゃないか?」
推しの質問だったので、アリスは簡潔に説明した。
「それだと、吐いた物を誤嚥して肺炎になってしまう可能性があります」
「なるほど」
それきり、彼は邪魔をしないようにか、いっさい話さなくなった。
吸引を終えると、アリスは再び天井に手をかざす。
「胃管とキシロカインゼリー、あと諸々!」
吸引の管より太い管が、アリスの手に現れた。
「殿下、清潔なお水を大きな桶でくださいませんか」
「よしわかった」
こくりとうなずいたラズロは、すぐに人を呼び寄せ、桶いっぱいの水を用意させた。
アリスは一度上を向かせた令嬢の鼻と胃管の先に麻酔効果のあるゼリーを塗り、右の鼻の中に管を挿入する。
周りから「うえっ」と言う声が聞こえた。
見ているだけで痛いのなら、見なければいい。
アリスは外野を一切無視し、胃管挿入に集中していた。すると。
「おい、城の外でやってくれないか」
後ろから声がした。先程聞いたアーロンの声だとアリスが気づくのに、時間はかからなかった。