悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
「国王陛下の御前だぞ。床を片付けねばならない。その娘を連れて敷地の外に出ろ」
床なんてどうでもいい。匂いが気になるなら鼻を塞いでいろ。
アリスは聞こえていないフリで、胃管を挿入し終えた鼻を、医療用テープで固定した。
「なんてことでしょう。私たちの結婚式の思い出がこんなふうに汚されてしまうなんて」
カンに触る甘ったるい声に、アリスは思わず振り向いた。
やはりソフィアが、丹念に作った困り顔で立っていた。
「おおソフィア。可哀想な花嫁。おい、早く運び出せ!」
そうだそうだと、周りが煽り出す。
すっかり悪者にされた令嬢。そしてアリスに、王子の親衛隊が手を伸ばす。
「やめろ。彼女の邪魔をするな」
庇ってくれたのは、ラズロだった。意外な展開に親衛隊は戸惑い、手を出せなくなった。
アリスは処置をする手を止め、真っ直ぐにソフィアを視線で射抜いた。
「この薬の成分がわからない限り、早く処置しなくては。時間が経つと、重篤な状態になってしまうかもしれない」
「わざと薬を飲んだのね。式を台無しにしようとして。ひどいわ」