悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
病棟全体で四十五人のベッドがあり、看護師不足のため、ひとりで五人以上受け持たねばならないことはザラ。
しかも消化器内科の病棟なので、内視鏡検査も多い。検査の時は、看護師が検査室まで患者を搬送しなくてはならない。
「亜里先輩、中村さんの胃カメラ呼ばれましたーっ」
廊下を走っていると後ろから声をかけられたので、亜里は振り向いて怒鳴る。
「急変があって無理! 検査出せって言うなら、誰かこっちの対応して!」
「はい! じゃあ私が検査出ししてきます!」
「ありがとう!」
ハキハキと返事をしたのは、ひとつ下の看護師だ。新人はまだ役に立たない。
そういう亜里はもう五年目。
看護学科がある高校と短大で学び、卒業後今の総合病院に就職。
何度か病棟異動を経験し、仕事の厳しさと忙しさにくじけそうになりながら、なんとか続けている。
「平松さーん」
「血圧測定できません」
「そう。平松さん、がんばって。すぐに奥さんが来ますよー」
看護師たちは患者がもう返事はしないであろうことを予感しながら、ベッドを個室に移す。
「この人ってDNAR?」
「いいえ、フルコースです」
「あらら……」