悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 亜里の推しはアーロンではなく、青い髪の第二王子ラズロだった。アーロンも嫌いではないが、彼のルートは第二王子ほど萌えなかったのだ。

 アリスは決断した。推しでない王子に断罪されてなるものか。

「執事を呼んで! 今すぐ!」

「は、はいっ」

 メイドが走っていってしばらくして、執事と一緒に戻ってきた。初老の執事は困惑顔でアリスを見つめる。

「お嬢様、急がねば例の予定に間に合いません」

 彼が言うのは、主人公の殺害計画のことだ。

 アリスは彼を使い、主人公を襲う手筈になっていることを思い出したのだ。

「いいの。あれ、もうやめた。だから行かなくていい」

「え、でもあれほど綿密に計画を」

「やめやめ。悪いことは一切やめ。そんなことしても意味ないから」

 執事はアリスの変わり様に、ぽかんと口を開けて呆然とした。

(これで断罪イベントは避けられる。今夜の舞踏会で第二王子にお近づきになろう)

 アリスは駆け出し、勢いよく部屋の出窓を開けた。

 朝陽が庭の木に反射してきらめき、小鳥が歌う声がどこからか聞こえてくる。

「ここから人生やり直すのよ~!」

 突然ミュージカルのように大声で歌いだした彼女を、執事が慌てて止めようとする。メイドたちはあ然とした表情で傍観していた。

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