悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 彼女はもう、ただの悪役ではなくなっていた。前世の記憶を覚醒させ、すっかり性格が変わっていた。そこにはなんの葛藤もなく、意外に気分はスッキリサッパリしていた。

 しかし当然、周りの人間は誰もついてこられない。

「ええっ。でもこのままじゃ、あの女が王太子妃に……!」

 モブが視線を送った方に、ひとりの少女が立っていた。

 丸っこいピンクのボブヘア。丸い瞳。平均的な顔立ちは、まさしく乙女ゲームのヒロイン。

「いいよ。そもそも私、アーロン推しじゃないし」

「へっ? おし? って?」

「みんなも負けを認めたらそれぞれ別の推しを見つけて、楽しく生きよう。うん、そうしよう。じゃあね」

 これ以上一緒にいると面倒くさそうなので、アリスは人ごみの中に突っ込んで彼女たちを撒いた。

 大広間には王家の一族、招待された貴族、魔法学校の生徒たちが溢れかえっている。

 全員がアーロン王子の婚約者発表を今か今かと待ちわびていた。

 アリスは人ごみの中から、前世の推しである第二王子を探しあてた。

 しかし彼は王族どうしで会場突き当りの王族席に集まっており、気安く話しかけられる状態ではなかった。
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