悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
体拭き、点滴、シーツ交換、おむつ替え、バイタル測定、薬を飲ませ、食事の介助。
検査やリハビリがあれば送迎し、カルテに記録を残す。
それを何人分もやるのだから、ひとりにかかりっきりになるわけにはいかない。
しかし亜里たちは、家族に看護師の膨大な業務をわかってくれとは言わない。
家族は行き場のない悲しみを看護師にぶつけているだけだ。彼女たちはそれを黙って受け止めるのみ。
努力の甲斐もなく、患者は一時間足らずで完全に心停止した。
主治医は死亡確認したら、さっさと病室から出ていく。
死後の処置をするのは看護師の役目だ。
家族を待合室で待たせ、ご遺体の体拭きと着替えをする。
「もう少し早く、異変に気づいてあげられていたら……」
涙をいっぱい溜めて、後輩が呟く。
「あなたのせいじゃないよ。急にこういうことになるの、珍しくないから」
亜里が慰めると、後輩は辛そうに顔をゆがめた。
「うっ……ううっ……今日も、残業……帰れない……」
「そっちが本音かい」
午前中の業務がずれ込むと、全部がずれ込む。
しかも今日は検査も退院も入院も数が多く、とても定時で帰られそうにない。