悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 嫁いでから何度も思ったことを考えてしまう。

 お金があれば、城の隣に独立した病棟と、隊員用の広い寮、練兵場を作れる。

 メイドを雇えば、隊員の負担も少なくなる。

 けれど今の時点では、とてもできない。国王もルークには、必要最低限の援助しかせず、特に名産品のないこの地の税金は限られている。

(税金を上げるわけにはいかないし、仕方ないか)

 民衆は貧しいながらものほほんと暮らしている。

 アリスは彼らに無理な労働を強いる気にはなれなかった。

 亜里のように国家に搾取され、病院にこき使われるような人を増やしたくはなかった。

(とんだお人よしよね、私って。悪役令嬢のはずなのに)

 その日の分の洗濯を終えると、アリスたちは木の間にロープを張った。

「さあ、どんどん干しなさい」

 彼女自身は、たとえ洗われたものであろうと、隊員の下着を触る気は一切ない。

 隊員たちは「しんどい」と文句を言いながら、大人数で次々に洗濯物を干していく。

「世間の奥さんたちは、しんどい家事を毎日一手に担っているんだから。文句言わないの!」

 アリスが偉そうに胸を張ると、近くを通りかかった奥さんたちが「まったくその通りだわ」

「男たちも私たちの大変さを思い知ればいいのよ」と激しく同意して帰っていった。


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