悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
ふわふわと風にさらわれたシーツは、街の方へと飛んでいく。
「ちょ、ちょっと……そろそろ落ちてきなさいよ」
ぜえはあと荒い息をするアリス。そもそも令嬢は労働もしないし、魔法学校でも体育はなかったので、彼女に運動するための体力というものは備わっていないのだ。
「大丈夫か。城に戻れ」
追いかけてきたルークがアリスの肩を叩いた。
「ダメよ。ひとりじゃ戻れないわ」
彼女はまだ、こっちに来て日が浅い。走り続けたら目の前は街。ここからひとりで城に戻りなさいと言われても、途方に暮れてしまう。
「落ちる」
ルークが下降するシーツを指さした。ふたりで一緒に追いかけ、地面につかせまいとワタワタした。
ようやく無事にシーツをキャッチしたふたりは顔を見合わせ、息を吐く。
気が付くと、ふたりはとある民家の敷地に入り込んでいた。
レンガ造りの建物の裏から表に出ようとすると。
「待て」
先を歩いていたルークが突然立ち止まり、アリスは彼の背中に鼻をぶつけた。
「どうしたの?」
「しっ」
ルークはアリスの肩を抱き、建物の裏側に戻る。ふたりはそこから顔半分だけをのぞかせ、表の通りに面した方を窺った。