悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「あっ!」

 民家から出てきた大柄な人物が、のっそりと歩き出した。

 だるそうなその腹はまるで蛙のようにまん丸く張りつめている。そこだけ見ると、臨月の妊婦のようだ。

「ジョシュア副長じゃない」

 顔はイケオジなのに、体が残念な、感じの悪い副長。

 アリスは思わず彼をにらみつける。

「取り巻きを伴わず、何をしているんだろう」

 副長は四十代後半で、同じ年頃の取り巻きを三人、いつも連れている。

 しかし今日は、明らかにひとりだ。彼は数歩行った先で建物の方をじっと見つめた。

「なにあれ。めっちゃ見てる。気づかれたかな?」

「そういう感じではなさそうだが……」

 ジョシュアはしばらくそうしたあと、ふと背を向け、安そうな辻馬車を拾い、それに乗り込んだ。

 馬車が角を曲がって見えなくなってから、ふたりはそっと建物の裏から出た。

「あんたたち、ひとんちの裏でなにしてんの?」

 突然声をかけられ、ドキリとした二人が振り返る。逆側から来たのであろう子供が、アリスたちをにらんでいた。

 十二歳くらいの彼からしたら、シーツを抱えた怪しい大人にしか見えないふたりである。

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