悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 彼らは厚かましく横柄で、退院してもすぐに酒を浴びるように飲んで、結果吐血し、病院に帰ってくる。

「それは許せないわね」

「しかもあいつが店に来ると、怖くて他のお客さんが入って来られないんだよ」

「そう。あなたの代わりにぶち殴ってやりたいわ」

 同調するアリスに気を許したのか、少年は突如くしゃりと顔を歪ませた。

「父さんさえ生きていれば……」

「父さん? キミのお父さまはお亡くなりになったの?」

「数年前にね。女一人だからってなめてるんだ」

 アリスは顎に手をあてて考え込む。

(もしかして、副長はここの奥さんが好きで通っているのかしら?)

 ちらと見たルークも同じことを思ったらしい。

 さっと窓から中を覗くと、三十代くらいの金髪の女性が中で作業をしていた。

「美人なお母さんだな。心配する気持ちもわかる」

「そうだろ。あーあ、あんな汚いやつら全員いなくなって、新しい領主様が来ればいいのに」

 少年の悪気のないひと言が、ルークの胸をぐっさりと突き刺した。

 ルークはジョシュアが叔父ということもあり、素行が悪くてもなにも言えないでいる。

 自分の力のなさを指摘されたようで、非常に落ち込んでしまった。

「ちょっと、こんなところでどんよりしないでよ。じゃあね坊や。薬が必要なときにはまた来るわね」

 あえて自分たちの身分を明かさず、ふたりは薬屋を後にした。

 シーツを持つ手が、とても重く感じられた。

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