ユートピア
第2話
 店が静まった時。真夏。黒いニット帽に黒いパーカーの、細くて背の高い男。

「金出せ。」

 据わった目。透き通っていて、とても綺麗だった。ただ褪めていただけかもしれない。でも、綺麗だった。

 向けられた銃。銃口から放たれた小さな光で、私は既に心を撃たれていたのかもしれない。

「それ、本物ですか?」
「早く出せ。」
「撃ってください。撃てばお金盗めますよ。裏に金庫もあります。」
「…。」
「あ、でもちゃんと殺してくださいね。中途半端は嫌なんで。」

 やばい。客が入ってくる。

「私裏に逃げるので、襲う振りをしてついてきてください。裏から出られます。」

 ついてきてくれた。裏口の前。

「お前…。」
「早く逃げてください。」
「一緒に逃げるか?」

 こんな言葉を待っていたのだろうか。透き通る目に、吸い込まれる。

 私はその人の腕を掴み、裏口の扉を開けた。外に出る。腕を掴み返され、軽自動車。車が走り出す。

 どうでもいいんだけど、なんか聞いてみた。

「どこに行くんですか?」
「知らねぇよ。」

 首の左側。ツバメのタトゥー。

「どこか行きたい所、あるのかよ。」

 答えに迷った。考えた。何て言ったら、伝わるかな。

「どこにも行きたくない。どこにもいたくない。」
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