crazy for you
恐る恐る目を開けると...



男が振り上げていた拳は誰かの手によって掴まれていた。



そしてさっきまで威勢よく私に突っかかってきた2人は同じ方向を見ていた



その視線を辿るとそこにいたのは、背の高い男の人



暗くてそれくらいしかわからなかった。



「....その手離せよ」



その人は低い冷たい声でそう言い放った



すると2人の男は何も言わずしかめた顔を合わせ、私が離せと言っても離さなかった手を簡単に離して静かに姿を消した



「「...」」



私とその男の間にまだ少し冷たい初夏の夜風が通った



「...なあ」



今のは何だったんだと、ぼーっとして立ち尽くしていた私はその一言で現実に戻された



「...え?あ、ありがと..う?」



何故か疑問形になってしまった語尾



それに彼はふっと笑ったような...気がした。



服を見ると私の高校の男子用の制服と、私がつけているのと全く同じ校章が襟元についていた



「あれ?同じ校章ってことは、中央高?」



「...あぁ」



静かに答えてくれた



「えっと、あのー、名前聞いても....」



私が『いいですか』と言う前に彼は、クルッと方向転換して歩き出した



「あの!」



私が少し大きめの声を出して呼び止めると、少しだけこちらを振り返ったがまた正面を向き直し行ってしまった



私の通学路は街中とは違い街灯が少なく暗いため、顔も全然見えなかった



私の勝手な想像だけど、あーやって助けてくれて、しかも名前も言わずに立ち去るなんてかなりのイケメンなんだろう



私の妄想だけが膨らんだ



その人がどんな人でどんな顔か想像して歩いていたらすぐ家についた



「ただいまー」



誰もいない家に私の声だけが響いた



そう、私は今この広い家に1人で住んでいる



別に両親がいない訳でも、死んだ訳でもない



ただ両親はこれでもかって言う程の仕事人間で国内外を飛び回っている



小さい時からそうだった



私はママの実家に預けられて、私はおばあちゃんとおじいちゃんに育てられた



ママとパパと遊園地に行ったことはもちろん、3人でどこかに遊びに行った思い出もない



だからおばあちゃんとおじいちゃんが一緒に遊んでくれたし、いろんな所に連れていってくれた



だから私はおばあちゃんもおじいちゃんも大好きだった



だけど、私が成長して歳を重ねるのと同じように2人も歳を取る




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