永世中立でいたいんだけど、そうさせないのが君たちだよね 〜龍になっております〜
大きな金の指輪をした右手が硬い握り拳を作り、母の左頬に直撃した。
ガツっ…!
と鈍い音を立てて倒れ込む母に何度も振り下ろされる。私は咄嗟に父の足にしがみつきながらやめてと繰り返す。
「お父さん、お父さん!やめて!お母さんが死んじゃうよ!お父さん!」
「うるせぇ!!!」
次の標的は私だった。長くさらさらなロングの髪の毛を上にぐっと引き上げられ張り手を喰らう。広い社長室に私の泣き声と母の叫び声が響き渡る。
どのくらい経っただろうか。私に覆いかぶさった母の口から「行こう」と呟かれてやっと我に返る。父と愛人はこちらを振り向こうともせずに寝室へ入っていく気配を感じていた。あそこはかつて父と母と私、3人で寝ていた幸せな空間だった。
美しかった母の顔は醜くなっていた。まるで鬼のような形相で、カエルのような腫れぼったい目には涙を浮かべていた。
「…痛いの痛いの飛んでいけ…」
私を抱きかかえながら切れた唇でおまじないをしてくれた。きっと私も酷い顔をしているのだろうな。玄関に並べられた赤いハイヒールの隣にあるかかとの剥がれた靴を乱暴に履いてこの家を後にした。
「愛してるよ、お母さん」
「お母さんも愛してるわよ、りんちゃん」
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