如月の空の下、光る君を見つけた。
あの長々として所々重苦しい話をした。


この真っ暗闇の中で話すなんて最悪以外の何ものでもないのだけれど話すしかなかった。


だって初リクエストだもん。



「君も色々苦労したんだね」


「君もってどういうこと?」



詩央くんの顔に暗い影が見えた。


停電のせいなんかじゃない、精神的に苦しい時に出来る影が現れたんだ。


私は手をぎゅっと握った。


その影に詩央くんが飲み込まれないように。



「オレは...アイドルなんてやりたくなかったんだ」


「えっ...?」


「ミュージカルのオーディションに落ちたから今アイドルやってる」


「そう...なの...」


「このことは事務所の社長とマネージャー以外誰にも言ってない。こんなの話したらカッコ悪いしな。どっかの週刊誌に書かれるまで黙ってろって言われた」



アイドルをやりたくなかったなんて...。


光を浴びれば影は出来る。


その影は光を浴びれば浴びるほど黒く濃くなり、心を濁らせてしまうのかもしれない。


私に詩央くんの全てを理解出来るかは分からない。


それでも聞かせてほしい。


受け止める準備は出来てる。


私にも辛い過去があったから。



「誰にも言わない。絶対言わないから話して。私の過去だけ背負わせるっていうのはしたくない」


「オレがなんと言おうと君は意志を曲げない。そうだろ?」


「ご名答」


「なら、話すよ。オレがアイドルになるまでを」



私は静寂の中、唾を飲み込まずにはいられなかった。


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