如月の空の下、光る君を見つけた。
「オレが...片桐詩央が...なくなるのが...怖い。オレの心が死んで、人の目を常に気にして生きていかなきゃならないのが...しんどい。やりたいこともやれず、このままオレじゃなくなって...きえ...消えちゃったらって...」



遂に詩央くんは泣き出した。


私の腕を強い力で掴んでいる。


足元のブラックホールに吸い込まれないようにするために。



「大丈夫...大丈夫だよ。詩央くんはいなくならないし、消えないし、死なない。私が詩央くんの居場所になる。私は絶対詩央くんを離さない。どんなことがあっても私だけは味方でいる。もう無理しなくていい。如月陽翔がいなくなってもいいから、だから詩央くんは...詩央くんはいなくなっちゃダメ。私が守るから。絶対守るから...諦めちゃダメ。生きて...生きて本当にやりたいことをやって、さいっこーの夢を見よう」



詩央くんは私の腕の中でしばらく泣いていた。


泣き止むまで私は彼の気持ちに寄り添い、愛を伝えながら抱き締め続けた。


13歳でデビューするまで挫折を繰り返し、血が滲むような努力をしてきた。


デビューしてからは誰かの理想のアイドルになるために努力し、自分を犠牲にした。


その結果こうしてボロボロになって泣くしかなくなっている。


知らなかった。


私は如月陽翔の表だけを見て片桐詩央という裏を知ろうとしていなかった。


泣きたくても泣けなかった。


なら、今泣けばいい。


私も受け止めるしかないんだから。


私の初恋の人、如月陽翔は...幻だったんだ。


あんな完璧な人間なんていなかったんだ。


初恋は静かに終わりを告げた。



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