如月の空の下、光る君を見つけた。
活字が嫌いな私は読めるものといったらマンガかえほん。


生憎少女マンガはないので、歴史マンガを読んで退屈をしのいでいた。


うとうとしつつ、というか、完全に一時意識を飛ばしていたが、戻ってきた時には17時半を過ぎていた。


ヤバい。


もう終わってるじゃん。


帰っちゃってたらどうしよう。


私は猛ダッシュで廊下を駆け抜け、教室に飛び込んだ。


お気づきの通り、廊下を走るなっていうお決まりのポスターは無視しております、はい。


きちんと開き直ったところで到着。


勢い良くドアを開ける。



「詩央くん!」


「なんだよ、うるさいな」


「良かったぁ、まだいた。今日も朝お仕事お疲れ様でした。そして、テストも無事終わりまして良かった良かった」


「そんなこというために残ってたのか?」


「ううん、違う。今日という今日は、カラオケに行こうと思って」


「は?」



この発想、至って普通じゃない?


だってアイドル歌手の友達が出来たんだよ。


一緒に歌いたいに決まってるじゃん。


しかも、私は陽翔くんとして歌う詩央くんの声にホレたんだよ。


この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいきません。



「明日8時から撮影だから無理。帰って寝たい」


「そんなぁ...」


「だいたい想像つくだろ。オレは今ドラマ撮影で忙しいんだ。分かったか?」



分からないよ。


たまには友達との約束を優先してほしいよ。


私の優先順位はどんなことより、どんな人より低いのかもしれないけど、これは酷すぎない?


はぁ。


やっぱり私はそれだけの存在なんだな。


肩を落としまくって歩き出す。


帰る以外選択肢がない。



「ちょっと待て」


「はい...」


「君には色々と助けてもらった。その借りは返さないとならない。今すぐは難しいからドラマが終わるまで待っててほしい。そしたらカラオケでもなんでも行くから」



な、な、な、な、なんということ!


一気に天国ぅ!


重力を感じさせないくらい心がふわわあんと軽い。


まさかそんな言葉が詩央くんから出るなんて信じられない。



「嘘じゃないよね?」


「嘘はつかない主義だ」


「やったぁ!めちゃくちゃ嬉しいっ!ありがとう!楽しみにしてる」


「そんな嬉しがることかよ」


「嬉しいよ!だってずっとファンだった人の歌声聴けるって確約されてるんだもん!この気持ちだけでご飯3杯、いや10杯いけちゃうよ」


「10はどっから出てきた?」


「やった、やったぁ!幸せ、幸せっ!」



今日は無理でも私には未来の約束がある。


そっちの方がロマンチックでいい。


さすが、陽翔くんが憑依してる詩央くんだ。



「じゃ、早く帰ろう!明日も早いんだから」


「いや、早いのはオレだけだけど」


「細かいことは気にしないっ!ほら、行くよ」



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