如月の空の下、光る君を見つけた。
と、その時だった。



ブーブーブーブー...。



スマホが鳴った。


こういうタイミングでかけてくるのはあの人しかいない。


急いで手に取り、画面をタップする。


予想通りの名前が浮かんでいた。



「もしもし」


「ちょっとことり。あんた入試対策講座受けないで何してんの?」


「みっちゃんなら分かるでしょ。私はオタク活動の真っ最中ですぅ」


「あっそ」



何よ、素っ気ないな。


そんな冷たい態度取るくらいならわざわざ電話かけてこなくていいじゃん。


みっちゃん自身だって不愉快じゃないのかな。



「私はどうせ大学に行けるお金無いし就職先も先生が斡旋してくれるからいいの。みっちゃんは私のこと気にしないで自分の勉...」


「いい加減にして!」



突然の大声。


鼓膜が破れるかと思った。


何キレてんの?


30年早い更年期?



「あんたいつまでそうやってるの?!おじさんが亡くなってからずっとあんたは何のやる気もなくて淡々と生きて!そんなんで楽しい?アイドルに貢いだって何したってかまわない。だけどことりがこのまま生きて行くのあたしは許さない。親友としてはっきり言う。ことりは逃げてるよ!嫌なことから全部逃げてる!自分が傷つかないように逃げてばっかりなんだよ!」



逃げてる...か。


そう...だよね。


そう見えるよね。


みっちゃんの言ってることが正しいことくらい誰にも言われなくても自覚している。


だから余計にムカついた。


だけどその気持ちは押し殺した。


みっちゃんに迷惑かけてるのは事実だし、バカな私のために叱ってくれるのは優しくて正義感のあるみっちゃんしかいないから責める気にはなれない。


その代わり、私は謝る。



「ごめんね、みっちゃん。本当にごめん」


「ことり、あたし...」


「言い過ぎじゃないよ。みっちゃんに言われて目が覚めたよ。今後のこと色々考えて行動するから、みっちゃんは見守ってて。ライブの時は付き添いよろしく。それじゃあ、また」


「ちょっ...ことりっ!」



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