如月の空の下、光る君を見つけた。
私は完璧に変装した詩央くんと一緒にカラオケボックスにやって来た。


まさか今日になるとは思わなかったから、練習も何もしてきていない。


ただとりあえず歌いたい曲と歌ってほしい曲をどんどん入れた。


私は他人様に聞かせられるような歌声じゃないから熱唱するのは恥ずかしかったけれど、文句も言われなかったからいつものように大声を張り上げて歌っていた。


一方詩央くんはバラードを中心にしっとりと歌い上げていた。


さすが歌手という抜群の歌唱力で、まるでライブに来ているような感覚になった。


しばらく歌に専念していたけど、ある時突然それは途切れた。


手元にあるドリンクに手を伸ばす。


一口飲んで、静かに置いた。


隣の詩央くんも私と同じことをした。


そして、私は詩央くんの方を向いてその透明で消えてしまいそうな瞳を見つめた。



「何か言いたいことあるんだよね?」


「まあ」


「言って。詩央くんもご存知の通り、私タフだから」


「タフか...。それは違うね」


「そう言ったのは詩央くんだよ!何を今さら。だいたいにおいて私、詩央くんからディスられてばっかだったんだから!会って数秒でブスって言われるし、料理は60点とか言われるし!失礼極まりないよ」



私が今までの鬱憤を吐き出した後、詩央くんの肩が震えだした。



「何?」


「ははははっ!はっはっは!はっはっはっは!あっはっは!」



何でこのタイミングで笑い出すの?


この空気で普通笑える?


なんだか、私までおかしくなってきた。


笑いって伝染するんだね。



「ははははっ!私で笑うとか、意味不明っ!ははははっ!あはははっ!」



笑いすぎて涙はでるは、腹筋崩壊するはでとにかく大変だった。

< 71 / 98 >

この作品をシェア

pagetop