如月の空の下、光る君を見つけた。
ようやく静まり返った頃には、私は詩央くんの肩に頭を乗せ、何度も欠伸を繰り返していた。



「笑ったら眠くなっちゃった」


「意味不明だな、ほんと」


「それはお互い様でしょ。それより早く本題に入ってよ。焦らしておいて話さないのはナシだからね」


「分かってるよ。本題っていうかなんていうか、君に伝えたいことが2つある」



2つ?


2つしかないのに、よくここまで引っ張ったね。


生放送なら尺ないよ。



「1つは、愛川さんとのこと。愛川さんとは何もないから。彼女が勝手に匂わせしてるだけ。オレのこと本気で好きになっちゃったみたいでオレも迷惑してたんだけど、こんな風になっちゃうし。2ショットなんて撮った記憶ないのに合成されるし。芸能界って本当に汚いよね」



そうなんだ。


愛川さんとは何もなかったんだ...。


なんか少しばかり嬉しいし、ほっとした。


それより、そのことをきちんと報告してくれたってことの方が何倍も嬉しい。


まだアイドルの気配りが生きているようで安心した。



「あと1つは?」


「あと1つは...君にありがとうってこと」


「えっ?」



私詩央くんに何かしたっけ?


思い当たることがないのですが。



「君に片桐詩央を受け入れてもらったあの日にオレはグループから抜けることを決断した。最終的には皆それぞれ別の道を進みたいってことだったから解散ってなったけど、オレの中でケジメをつけられたきっかけは君だ。本当にありがとう」


「いやいや、それほどでも...。っていうか、私自身もあの日を境に色々見方も考え方も変わって世界が広がったから、私も詩央くんに感謝だね。ありがとう」



如月陽翔という完璧なアイドルを好きになり、片桐詩央という毒舌なくせに自分のこととなると不安になり、弱気になってしまう完璧には程遠い、ある意味普通の感性を持ち合わせた人間に出逢えた。


それはこの地球上でも希に見る奇跡で、私はその奇跡が自分に訪れたことが今でも信じられない。


奇跡は確かにあるって17でやっと知ったよ。



「ってことで、これからもよろしくね。明日以降も私について来いっ!」


「着いて行くのは嫌だから追い越す」


「はぃ?!」


「ははは。しかし君は面白い人だ。その顔芸はお笑い芸人以外許されないから気をつけた方がいい」


「なにぃ?!」


「ま、いい。いつまでもその明るさと笑顔を忘れないで。君を必要としてくれる人は必ずいるはずだから」



なによ、急に良いこと言っちゃって。


私、ファンやめたんだからね。


今さら株上げようとしてもダメだよ。


なんて言いながらも嬉しいことは嬉しいから照れ隠しにまたドリンクを一口飲んで落ち着いた。



「ふぅ...。じゃ、最後に詩央くんの翼を聞いて終わろう!」


「なんでオレが最後なんだ。君が歌えばいい」


「私の歌は下手すぎだからねえ。詩央くんの鼓膜を破っちゃったら大変だなって思って。私の歌が聞きたければ自己責任で。ちなみに治療費は1円も払いません」


「分かった。歌う。歌えばいいんだろ?」


「最初からそう言ってよ~。それではラストの曲は、片桐詩央で...翼ですっ。どうぞ」



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