空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
そして、いよいよその時はやって来た。


「俺と碧萌でなんか買ってくるから2人はそこにいてね」


2人をベストスポットに置いて去る。

名残惜しく見つめてはいけないのだけれど、私は何度かちらっと振り返った。

2人が楽しそうに笑ってる。

その距離は近い。

私が踏み込めなかった領域に夏帆ちゃんは船をこぎだし、着実に近づいていた。

私は離島に一人取り残されたみたい。

言いようもない悲しみと喪失感に襲われた。


「碧萌はさ...」


前を行くたっくんが人混みの中声を張り上げる。

言いたいことはなんとなく分かった。


「これで良かったんでしょ?」


そう。

良かったんだよ。

私はこれで良かったんだ。

...なんて、そんなわけないじゃん。

本当は私があそこにいたかったよ。

海くんと2人で花火を見たかったよ。

でも出来ないんだ。

海くんの運命の人は私じゃなかったんだ。

どんな女の子よりも長く海くんと時間を過ごしてきた。

泣き虫で弱虫でぽっちゃり体型でブスでいじめられっこの私を、いつも一番最初に助けてくれたのは海くんだった。

泣いてたら優しく頭を撫でてくれて、

転んだら手を差し伸べてくれて、

遠足ではぐれて道に迷ったら迎えに来てくれて、

いじめっこに本気で怒ってくれて、

怒った後は笑わせてくれて...。

そんな海くんが好きだった。

言えなかった。

たった二文字が言えなかった。

言えずに消えて無くなるんだ、私の初恋は...。

線香花火のようにぽとりと呆気なく散るんだ。


「碧萌?」


たっくんが私を見つめる。

海くんとは違ってちょっとドライな面もあるけど、優しいのは同じ。

よく似た顔だけど、海くんは刈り上げててたっくんはアイロンで少し毛先を遊ばせている。

似て非なる2人のうち、1人が私の手を離したんだ...。

だけど、くよくよしていられない。

私は真っ直ぐ前を向いて答えた。


「うん。良かったよ。2人上手く行きそうで、キューピッドは感無量だよ」


強がるとたっくんが頭をポンとしてくれた。

だけどそれで傷が癒えることはなかった。


――ひゅ~っ...ドドン!


ラピスラズリのような夜空に色とりどりの大きな花が咲き誇っていた。


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