空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
「それに最近の碧萌はずっと辛そうだった。苦しそうだった。碧萌を傷付けるやつは許さないって言った。碧萌にこんな顔をさせたのは誰だ?...そうだ、あいつだ。名波颯翔だ。名波颯翔に出会ったから碧萌はまたこんな辛い想いを...。俺はあいつを許さない」

「たっくん...」

「碧萌、もう一度考え直してくれない?俺と碧萌なら上手くやっていけると思う。俺は絶対に碧萌を悲しませない。碧萌の側から離れない。だから碧萌、お願いだ。俺と付き合ってくれよ」


たっくんは私の悲しくて辛くて痛くて苦しくてどうしようもない気持ちを理解する努力をしている。

だけど、ね。

だけど、私は...

傷付いた。

私の大切な人たちの悪口を私の目の前で堂々と平然と言いはなった。

そんな人と私は付き合いたくない。

どんなに傷つけられても私は誰も傷付けたくないから、私は思ったことをそのまま口に出したりしないんだ。

そんなことも分からないで私を幸せにしようなんてそんなの間違ってるよ。

たっくんのことは大事だよ。

大切な幼なじみだよ。

でもそれ以上でも、以下でもない。

私にとって砂原拓海は砂原拓海で昔定義されたまま変わらない存在なんだ。

だから、ごめん。

私はたっくんに背を向けた。


「碧萌...」

「ごめん、たっくん。何度考えても私の気持ちは変わらない。私は自分が傷ついても相手を傷付けたくないんだ。だから...バイバイ」

「碧萌、待って!俺は碧萌と一緒にいられないと傷つくよ。俺のことは傷付けてもいいの?」


本当は傷付けたくない。

だけど、物事には必ず犠牲が伴う。

私と一緒に犠牲になるのはたっくんしかいない。

振られた身だからこそ傷を舐め合うんじゃなくて、振られた身でも自分を犠牲にして傷を増やしてでも自分の守りたい大切なものを守るしかないんだ。


「ごめん...。今日はもう1人にさせて」


下駄を脱いで手に持って走った。

アスファルトは暑いし、ゴツゴツしていて痛い。

裸足で走るなんてご法度だと思う。

でも、走る。

とにかく走った。

茜色の空に目を細めながら、私は行く宛もなく無我夢中で走った。

そして思い出した。

迷子になったあの夏の日を。

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