隣のシンタ
あと、3分の1で終わる!
そう胸が高鳴る。
私とシンタはあのまま無言で作業を
もくもくとこなしたおかげで予想以上に
早く進んでいた。
『おっ!だいぶ進んだじゃん!あと3分の1くらい??』
ん~ん!とおっきく背伸びをするシンタ。
「そうだね。あともう少しだね!ちょっと休憩する??」
『いや、お前早く帰りたいんだろ?しんちゃんガンバちゃうよ?』
「私もそこまで鬼じゃないわ!!ちょっと休憩しよ?」
『んにゃ、大丈夫。あと少しだし、終わらせちゃお!』
「シンタがそういうならいいけど…。」
『お前は?休憩したいんならしていいよ!俺が進めとくから!』
「うんん、大丈夫!ありがとう。シンタってやっぱり優男だね。」
『え、今気づいたの??』
なんて言いながらまたプリントに
手を伸ばすシンタにつられて私も
作業を再開する。
『ねぇ、お前さ~、』
作業をしならシンタは
何気なくしゃべり始めた。
『ねぇ、お前さ~、今好きな人とかいないの?』
「はい?!突然何!!?」
『なんか気になって!』
今、私の顔ひどいぐらい
びっくりしてるだろうな~って
思うぐらい驚きを隠せない。
『で?いるの?好きな人。』
「い、いないけど??」
『え、マジ??』
「マジっす…。ね、ほんとに突然どうしたの?」
そんなことを話始める雰囲気だった?
シンタはいつも唐突に
予想の上のことを言ってくる。
『だから、気になったんだって!好きな人作らない理由とかあんの?』
今日のシンタはやっぱりおかしい。
今まで隣の席にたくさんなってきたけど、
こんな話するのは今日が初めて。
「作らない理由!?」
『うん。お前さ、誰とでも仲いいのに彼氏がいる~とかいう噂聞いたことないじゃん。だからなんか理由でもあんのかな~って。』
「え…。なんか。」
『なんか??』
「なんか、男の子とそういう雰囲気になるの苦手なんだよね。ただただ。友達が彼氏と仲良さそうにしてるの見てたら羨ましいなぁって思って何回か克服しようと思ったんだけど…。」
『できなかったの??』
「うん。なんか逃げちゃって。」
『ふ~ん。そうなんだ。』
「いや、そっちから聞いといてその反応は何なのさ!」
『あのさ…。』
「うん?」
いきなり真剣な顔になったシンタに少し驚いた。
『あのさ、俺がわざと授業中うるさくしたって言ったらお前怒る?』
「はい?!」
何をいきなり言い出すかと思ったら、
またとんでもないことを
目の前の人気者は言い出した。
『やっぱり怒るよな…。』
シュンとうつむいたシンタは
まるで怒られた子犬のようで。
なんか可愛い…って
おいおい待て待て。
いきなり質問した上に
人の返事も聞かないうちに
勝手に解決して勝手にシュン
となるのは違うでしょ!
「待って待って。まだ返事してない。確かにびっくりした、えっと…わざとならそりゃ怒るけど…なんか理由があるなら聞こうじゃないか。理由によっては許すし。逆に火に油注いで、もうシンタとは一生口きかなくなるかもしれないけどね。」
『え?』
顔を上げたシンタは
とても驚いてるのに
どこか嬉しそうで。
「で、理由は?」
『え、お前本気で聞いてる?』
「え、うん。」
『ほんとに鈍感なんだね。』
「は?!それ火に油そそいだことになるけど大丈夫?」
『じゃあ、入学してからやたらと席が隣になるのも偶然だと思ってる?』
「うん…えっ!偶然じゃないの?」
『お前の隣の席に偶然であんなにもなれたら俺、運良すぎて逆に怖いわ!』
「えっ、席替えのクジになんかしてたの?!」
『そんな卑怯じゃないわ!お前の隣になったやつに頼み込んで席変わってもらってた。』
「そういうことね…。」
『もうわかった??席が隣になる理由も、今日わざとうるさくした理由も。そして好きな人がいないのか聞いた理由も。』
「……なんとなく…。」
どうしよう。
目の前にいるシンタから
目を逸らしたいのに、
シンタが凄く真剣な目をしてるから
逸らせない。
それに、理由もなんとなく分かったけど
言う勇気なんて今の私は
持ち合わせてない。
私はずるいの…かな?
こういう雰囲気を避けて通ってきた
結果、どうやってこの状況を
抜け出せばいいかなんて知らないし…。
どうしよう…。
『……俺、ずっとお前のこと好きなんだけど。』
なんとなく予想してても、
実際に言われると胸がキュッとなる。
『入学してすぐにお前の隣の席になって、初めは話あうし面白いやつだな〜って思うだけだった。でも、だんだん隣で見てたお前が友達から好きな人に変わっていった。』
「えっ…でもシンタ、モテるんだから私より可愛い人たくさん…いるよ?」
『ねぇ、話聞いてた?俺が好きなのはお前なんだけど。』
ふっと笑った彼の目は
やっぱり真剣で…。
『ねぇ、友達卒業したいの俺だけ?』
ほらね、また予想より
はるか上の言葉をシンタは言うんだ。
その言葉に何回も驚いた。
そして何回も笑わせてもらった。
私は気づいて居たのかもしれない。
私が今まで苦手だと避けてきたこの気持ちに。
でもズルして、自分にも嘘をついてたのかも。
『無言が答え…だったりする?』
困ったように笑うシンタ。
「わ、私も……」
がんばれ私。
ドキドキうるさい心臓と
そこまで来た言葉を言えない口。
頑張るんだ。もう、ズルはやめよう。
「わ、私も…友達卒業したい…です。」
『えっ?!ほんとに?!無理してない?大丈夫?俺、めっちゃ喜んじゃうよ?』
どこまでこの人は優しいだ。
「うん…。ホントの気持ちだから。」
そう言うと
シンタは照れたように
いつものように無邪気に笑った。