未来は霧のなか
「美佐子、手術終わったかな。」
水曜日の帰り際、千恵がポツンと言う。
期末試験後 午前授業で。
お昼前に帰る私達。
「うん。もう終わったんじゃない。」
答えるあゆみも、何となく 沈んだ声で。
「でもさ なんで美佐子 遠藤さんに 言わないんだろう。」
典子の言葉に
「遠藤さんって 本当に 美佐子の彼氏なのかな。」
とあゆみは鋭いことを言う。
私もずっと、そう思っていた。
「うん。私も変だと思う。美佐子、遊ばれているだけかも。」
私が言うと
「体だけの関係ってこと?」
と千恵は聞き返す。私は少し頷いて
「だって。遠藤さんが 本当に 美佐子に熱上げているなら 美佐子、遠藤さんに言うと思う。」
と私は答えた。
「逆に、美佐子が 遠藤さん、追いかけていたりして。」
あゆみは言い、私も頷く。
「なんか、美佐子って よくわからないよね。地元の友達も 遠藤さんも。実際に会ってないから。どこまでが本当か。」
典子はそう言って、みんなを見た。
「うん。今回だって。地元の仲間じゃなくて、玲奈先輩を頼っているし。美佐子 案外一人なのかな、地元で。」
輝美の言葉は、みんなが思っていること。
みんな、神妙に頷く。
「それなら もう 地元の付き合いとか、止めればいいのに。」
千恵は言った。
私も。私なら、そうする。
「そうだよ。真面目に学校に来て。普通の生活、すればいいんだよ。」
輝美も、千恵に同意した。
「それができないから、美佐子なんじゃない。」
ポロっと言う典子。
私達は少し笑う。
「結局 私 美佐子の為に 何もできないから。何も言えない。」
私が言うと みんなは 少し驚いた顔をした。
みんな 私の気持ちに気付いている。
これ以上 美佐子に付いて行けないと みんなも思っている。
「2年になると、クラス変わるし。」
ポロっと言う輝美。
「うん。私、真剣に勉強しないと。」
続けるあゆみ。
「仕方ないよ。家族じゃないんだから。」
みんなの気持ちを、代弁する典子。
みんな この一年で少し 大人になっている。
みんな自分の将来を考えて。
歩き出しているから。
毎日、寄り道して。みんなで騒いで。
今だけに夢中だったけれど。
みんな少しずつ遠くを見ている。
これが大人になるっていうことなの。
少し寂しいと思ったのは、みんなも一緒。
何となく、美佐子を裏切っているようで。
みんなが罪悪感を覚えていた。