未来は霧のなか

「大人になるって、何か寂しいね。」

終業式の翌日。私は亮太の部屋にいた。
 
「ヒロ 早く大人になりたい って言っていたじゃん。」

亮太は 不思議そうな顔をする。
 

「うん。大人っぽくなりたいけど。中身が大人になるのは ちょっとね。」

私は、少し口ごもる。
 
「わがままだなあ。中身が大人にならないと 外見も 大人に見えないでしょう。」

と亮太は言った。

私は美佐子を思い浮かべる。
 


「そうかな。美佐子って 外見は大人っぽいけど 純粋で正直で。中身は 私達より ずっと子供だよ。」

私が言うと
 
「美佐子は 全部わかっていて 子供のふりを しているんだよ。」

亮太は そう言って私を見た。
 

「えっ。何で?」

亮太の言葉に驚いて、私は亮太を見る。
 
「子供でいた方が楽だから。」


相変わらず、美佐子に対して 亮太は厳しい。
 

「そうなのかな。だって美佐子 早く自由になりたいって言っているよ。」

私が反論すると、
 

「大人になるって 自分に 責任を持つことでしょう。全然、自由じゃないよ。」

と言って亮太は 一度言葉を切る。

私が頷くと
 

「金銭的に自立して 初めて大人になるんじゃない。社会人になれば 学生の頃は 自由で良かったって思うんだよ。」

亮太はそう言って 少し照れた顔をした。
 

「リョウって、案外大人だね。」

私は 心から 感心して言う。

亮太は 嬉しそうに笑って
 

「ヒロが大人にしてくれたからね。」

と言った。この前と同じように。

私は頬を染めて、
 
「また言う。」と笑う。
 


「だから。ヒロと付き合って ヒロのこと 守りたいとか 考えるようになったから。」

と亮太は ぶっきら棒に答えた。

私は驚いて 亮太を見つめる。
 

「それで勉強も頑張っているの?」

と亮太に聞くと
 
「うん。俺がちゃんとしないと、ヒロに 愛想をつかされちゃうから。」

と答えた。


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