ぜんぜん足りない。
だれにも言わない。
“学校では話しかけないで”、って言われても。
他の女の子たちと一緒にいるとこ見たら、さすがに黙っていられない。
「ねえ。こおり君、ってば」
教室から出ていく背中を追いかけて、シャツの裾をぐいっと引っ張ると
まずは両サイドにいる女の子たちにギロッとにらまれた。
それから一拍遅れて、彼の冷めた瞳がわたしを捉える。
「国立さん、何か用?」
でた、苗字にさん付け。他人のフリ。
こおり君の貼り付けられたスマイルの裏に、怒りのマークが見えた。
「先生に、呼ばれてたよ。あとで職員室来いって」
「そうなんだ。どうも」
ふいっと視線をそらして、わたしを除け者にするみたいに背中を向ける。全力拒否態勢。
女の子たちは、ざまあみろ、と、かわいそう、が混ざった笑顔でこっちを見てる。
「国立さんって馴れ馴れしくない? ろくに話したこともないのに」
ひとりの子が、わざわざ大きな声でこおり君に話しかけた。
「さあ。 べつにどうでもいい」