ぜんぜん足りない。
仰け反った。
危うくソファから落っこちるところだった。
「動揺しすぎ」
「はう……っ、だって」
「いいから早く入ってきな」
「あ、え。い、一緒に……?」
「冗談だから。いちいち間に受けんなね」
ペースを乱されてばっかりだ。
仕方なく言うことを聞いて、お風呂に入る準備を進める。
洗面台の前で服を脱ぎながら、なんとなく周辺を見渡した。
歯ブラシ立てには、歯ブラシ1本、コップも1つ。
女の人の影はなさそう……。
そう思いながら下着に手をかけたとき。
「桃音」
「っ、!?」
扉が開いたと同時に、こおり君が顔を覗かせるからびっくりする。
「えっ、あのっ? わたし今、着替えて……」
「スマホ鳴ってる」
「は……」
「鳴り止む気配ないから出て。うるさい」
ああ、スマホ……。スマホね。
相手の言葉を頭の中で復唱するものの、意味を理解するまでしばらくかかった。