ぜんぜん足りない。
……なっ、えっ?
驚きのあまり、喉が貼りついたみたいに一瞬声が出なくなった。
「こおり君いま、可愛い、って言……?」
「ったけど、おまえ都合のいいとこだけ切り取ってない?」
「だって、っ、こおり君に褒められたのとか初めてだから……」
わたしの顔がこおり君のタイプじゃないってのは、今までさんざん聞いてきた。
本人からも、周りの女の子たちからも。
だから“可愛い”なんて、一生言ってもらえないと思ってたのに……。
「……録音しとけばよかった」
「はあ、怖」
抱きつこうと伸ばした腕を、ひょいと避けたこおり君。
だるそうに立ちあがると、そのまま扉の方へ。
「こおり君。もう帰るの?」
「心配したおれが馬鹿だった」
「お菓子でも食べていかない? ねえ、」
「時間ムダにした最悪」
噛み合わない会話はいつものこと。