ぜんぜん足りない。
「なっ、ええとあの、無視しないで答えてよっ」
昨日のキスを思い出して、めいいっぱい離れた距離から話しかけると、律希は視線だけをこちらに寄越して、ひとこと。
「家ない」
「へ?」
「帰るとこなくなった」
「えっ。いや、だって律希、……え?」
イエナイ?
カエルトコナクナッタ?
「律希、あっちの高校で寮に入ってたじゃん」
そう。律希は中3の冬、わたしに嘘をついて別の高校を受験した。
「停学になって追い出された」
「停学⁉」
「だから2週間、帰るとこない」
「……そ、それを先に言ってよ!」
ソファにつかつかと歩み寄る。
「ていうか停学ってなに?なにしたのっ?」
「……暴力で」
「暴力沙汰っ!?」
「うん」
「嘘だ!」
思わずそう叫んだら、思いっきり顔をしかめられた。