ぜんぜん足りない。
「急にどーした?」
「へっ、なんでもないよ」
「あそ。じゃあ俺、風呂入っから」
「うん、うん。行ってらっしゃい」
お風呂場に行く律希を笑顔で見送る。
その背中が見えなくなった瞬間、自分の部屋にダッシュした。
鏡の前でパウダーをはたく。前髪は手ぐしで妥協。
それからお風呂場の前まで行って、シャワーの音が聞こえるのを確認してから洗面所に入る。
あとは歯磨きしてこおり君の部屋に行くだけ……。
そう思って棚の上を見た、けど。
あれっ。歯ブラシがない!
どうやらこおり君の家に忘れてきたらしい。
しょうがない、こおり君の洗面台貸してもらおう。
そうしてなんともテキトウな準備を済ませたわたしは、ルームキーを持って部屋を出た。