ぜんぜん足りない。
──ピンポーン。
しばらくして聞こえてくる足音に胸が高まりながら扉が開く瞬間を心待ちにしていると、いつもワンコみたいだなって我ながら思ったりする。
カチャ、とロック解除の音がした直後
「おっそ」
と、気だるげな声が降ってきた。
「こおり君、あのね。今日は10分くらいしたら帰らなきゃいけない、かも」
「10分?」
「律希に何も言わないで出てきたから……。律希いまお風呂に入ってるんだけどね、シャワー派だからあがるのたぶん早いし、やっぱり5分かも……」
「………」
見上げるわたし。見下ろすこおり君。
「もっと順序立ててわかりやすく説明してくんない?」
「ええっと。でも、こんな話してる間に時間過ぎちゃうから、とりあえず洗面台貸してください……!」
こおり君を押しのける勢いで玄関に突入した。
スリッパを脱いで昨日歯ブラシを忘れた洗面台へと向かう。
うしろでこおり君がため息をついたのがわかったけど、無視。